LIFE
人生のワンシーンに、
関わらせてもらう仕事。
美容室は、髪を切る場所だけではない。
私にとって美容室は、
子どもの頃から身近にある場所でした。
父も美容師で、
三十年以上、自分の美容室を続けていました。
長く通ってくださるお客様のなかには、
親子だけではなく、その次の世代まで髪を任せてくださる方もいました。
一人のお客様と長く付き合うということが、
美容師にとって特別なことではなく、
ごく自然なものとして身近にあったのだと思います。
いろいろな美容師の時間を経験した。
私は父のもとで美容師として働き始め、
その後、東京へ出てきました。
表参道のような、
新しい流行やスタイルをつくる美容室で働いたこともあります。
美容室のなかだけではなく、
美容師としてさまざまな仕事にも関わってきました。
もっと経験を増やしたい。
自分の見える景色を広げたい。
そう思って、短い期間ではありましたが、
一日に何十人もの髪を切る場所で働いたこともあります。
一人の人と長く向き合う仕事。
限られた時間のなかで、次々と髪を切っていく仕事。
どちらにも、それぞれの難しさと面白さがありました。
たくさんの髪に触れ、
いろいろな人の生活を想像してきた時間は、
今の私の仕事につながっています。
同じ人でも、人生の景色は変わっていく。
今、マンツーマンで担当しているお客様のなかには、
十年以上のお付き合いになる方がいます。
一番長い方とは、
もう十五年以上になります。
十五年という時間のなかでは、
髪型だけではなく、さまざまなことが変わっていきます。
仕事が変わる。
家族が増える。
付き合う人が変わる。
好きなものや、休日の過ごし方が変わる。
自分から新しい生き方を選ぶ人もいれば、
思いがけない変化のなかで、
これまでとは違う毎日を過ごし始める人もいます。
人生には、本当にいろいろな季節があります。
新しい仕事が始まる人。
誰かと出会う人。
家族との時間が変わっていく人。
一度立ち止まり、また歩き始める人。
その変化のすべてを知っているわけではありません。
けれど、髪を通して定期的に会っていると、
その人が過ごしてきた時間を、少しだけ感じることがあります。
以前より表情が明るくなっていたり、
選ぶ服が変わっていたり、
会話のなかに新しい楽しみが増えていたり。
髪を切るたびに、
同じ人の、少しずつ違う姿に出会います。
髪は、向上心がなくても伸びていく。
髪は、何かを頑張っている人だけに伸びるものではありません。
調子が良いときも、
うまくいかないときも、
特別な目標がないときも、髪は伸びていきます。
だから人は、
何度も美容室を訪れます。
伸びた髪を切る。
シャンプーをして、頭を休ませる。
いつもより扱いやすい形に整える。
それだけの日もあります。
けれど、その何気ない時間のなかに、
次の変化につながる小さなきっかけが生まれることがあります。
今まで使わなかったものを試してみる。
少し違う髪型にしてみる。
自分に合うシャンプーやスタイリングの方法を知る。
一つひとつは、
人生を大きく変えるようなことではありません。
でも、そうした小さな選択の積み重ねが、
その人のセンスやスタイルをつくっていくのだと思います。
その人が過ごす時間まで考える。
私は、目の前の髪だけを見て、
仕事をすることはできません。
朝、どれくらい髪に時間をかけられるのか。
どんな仕事をしているのか。
誰と会い、どんな場所へ行くのか。
今は何を大切にしていて、
これからどんな時間を増やしたいのか。
そうしたことを想像しながら、
髪型や日々の扱い方を考えています。
似合う髪型をつくることだけが、
美容師の仕事ではないと思うからです。
その髪で過ごす毎日が、
無理なく、気持ちのいいものであること。
そして、ときにはその髪が、
新しい場所へ向かうきっかけになること。
そこまで一緒に考えられることが、
私にとっての美容師の仕事です。
人生の演出を、少しだけ手伝う。
美容室で行われていることだけを見れば、
髪を切り、洗い、乾かしているだけかもしれません。
けれど、その人が椅子を立ったあとには、
またそれぞれの人生が続いていきます。
新しい仕事へ向かう。
大切な人と会う。
家族のもとへ帰る。
いつもの毎日を、また少しずつ重ねていく。
私は、その人生のすべてを知ることはできません。
それでも、節目や変化の前後に髪を任せてもらい、
人生のワンシーンを一緒に見せてもらうことがあります。
だから私は、
ただ髪を切っているという感覚よりも、
その人の人生の演出を、少しだけ手伝わせてもらっている感覚があります。
髪型や、香りや、手触り。
鏡に映ったときの表情。
そうした小さなものが、
その人の毎日に一つの色やレイヤーを加えていく。
美容室は、髪を切る場所だけではありません。
人生の途中で、一度立ち止まり、
今の自分を整え、また日常へ戻っていく場所。
私は美容室を、
そんな場所として大切にしていきたいと思っています。