LIFE
髪を切る日は、誰かに会いにいく日。
髪型には、その人がこれから過ごす時間が表れる。
極端なことを言えば、
人はみんな坊主でもいいのではないかと思うことがあります。
髪がなくても生きていけますし、
髪型がその人の価値を決めるわけでもありません。
それでも、人は髪を整えます。
少し前髪を切ったり、
色を変えたり、
手触りをよくしたり、
今までとは違う形にしてみたり。
国や文化が違っても、
人は昔から、さまざまな方法で髪に手を加えてきました。
それは髪が、ただ身体に生えているものではなく、
その人の生き方や気分を表すものでもあるからだと思います。
髪型には、その人の時間が表れる。
どんな仕事をしているのか。
どんな場所で過ごしているのか。
朝、髪にどれくらい時間を使えるのか。
誰に会い、どんなふうに見られたいのか。
同じ髪型に見えても、
その人によって意味は違います。
手をかけずに自然に過ごしたい人もいれば、
毎朝きちんと整える時間そのものを楽しむ人もいる。
目立ちたくない人もいれば、
髪を通して、自分の存在を表現したい人もいます。
その扱い方や見せ方まで含めて、
一人ひとりのスタイルなのだと思います。
だから私は、自分の正解を押しつけるのではなく、
その人がこれから過ごす時間を想像しながら髪をつくりたい。
その人なりの選び方に、
きちんと敬意を持って関わりたいと考えています。
明日、誰かに会うための髪。
特に楽しいのは、
その人のこれからに予定があるときです。
明日はデートがある。
久しぶりに大切な人と会う。
新しい場所へ出かける。
好きな人のライブへ行く。
推しに会う日のために髪を変えたい、
という話を聞くこともあります。
前髪をほんの少し整える。
髪をきれいに見える色にする。
当日の服に似合う形を考える。
その変化は、周りから見れば小さいものかもしれません。
けれど本人にとっては、
これから始まる時間のための大切な準備です。
鏡を見ながら、
当日の服や会う人のことを話す。
どんな場所へ行くのか。
何を楽しみにしているのか。
どんな自分で、その時間を過ごしたいのか。
私は髪をつくりながら、
その人の物語を少しだけ聞かせてもらっています。
他人の人生に、少しだけ関わる。
美容師とお客様は、家族でも友人でもありません。
基本的には、髪を通して出会った他人です。
それでも、誰かに会う前や、
新しいことを始める前の大切な時間に、
関わらせてもらえることがあります。
私はそこに、美容師という仕事の面白さを感じています。
少し個人的な言い方をするなら、
誰かの人生のワンシーンに参加させてもらえることを、
私自身がとても楽しんでいるのだと思います。
サロンで髪を切っている時間だけを見れば、
何もドラマチックなことは起きていません。
ハサミを動かし、
髪を乾かし、
鏡で仕上がりを確認する。
けれど、その椅子を立ったあとの時間まで想像すると、
一つひとつの仕事の見え方が変わります。
この髪で、誰かに会いにいく。
この髪で、写真を撮る。
この髪で、初めての場所へ行く。
その先には、私の知らない会話や表情があります。
もしかしたら、長く記憶に残る一日になるかもしれない。
その準備に少しだけ参加できることが、
私にとっての美容師の楽しさです。
髪が人生を変えるわけではない。
髪型だけで、人生のすべてが変わるとは思っていません。
髪を切ったからといって、
急に自信に満ちた人になれるわけでもありません。
ただ、鏡に映る自分を少し好きになれたり、
誰かに会うことが少し楽しみになったり、
いつもとは違う服を選びたくなることはあります。
その小さな変化が、
次の経験へ向かうきっかけになることもあります。
美容室は、人生を変える場所ではありません。
けれど、これから始まる時間を想像しながら、
自分を整える場所にはなれると思っています。
髪を切る日は、
ただ髪を短くする日ではないのかもしれません。
誰かに会うため。
どこかへ行くため。
これからの自分を、少し楽しみにするため。
今日もサロンには、
それぞれの物語を持った人がやってきます。